どうでもいい話だ。
 伝えるには余りにも




































 これ以前に、
 37行が不在だった(数えなくてもよろしい。実際には36行しかないのだから)。それよりもっと前は、不在より前は——


 はじめに空白があり、次いで饒舌がやってきた。しかしそれは言葉ではなく豚の食い散らかしのようであり、不愉快で苛立たしげな情緒のない旋律のようでもあった。というのもわたしには予め言葉が与えられず饒舌の正体を知る前から既に気が狂っていたからだ。そのように。だがわたしにはサチがいた。夏の朝の澄んだひかりの匂い。サチは。草の露や小さい生き物たちのさえずりと仲良しのひかりの。わたしはサチを愛していたし、わたしたちはまるで時間の外へ放り投げられたみたいにふたりいっしょだったのだ。そのように。だからわたしは思い出す——。
 サチの衣服に鼻を埋めひかりの匂いを勢い良く吸い込むと鼻がつんと痛くなり、わたしの目には涙が滲んだがそれにサチは気がつかない、わたしの愛する姉は(彼女は何にも気がつかなかった、最後まで)。それで、手鏡があって。湖の表面のような鏡をわたしが覗き込むとサチがわたしに微笑みかけているのが鏡の奥に見え、手前では縮れた髪を無造作に撫で付けたパン粉みたいな肌の太った男がわたしを見ていた。わたしは泣き出した。鏡に映った男も醜く泣き出した。鏡のなかのサチが「泣かないの、あなたの好きなものをあげるから」とわたしに向かって柔らかな声をくれ、わたしの後ろからサチが手を伸ばしわたしの手に蛍の入った壜を握らせた。鏡の男も鏡のサチから壜を受け取っていたが手に握られた蛍はわたしの所有するものであり壜はひんやりと冷たかった。わたしは泣きやんだ。壜はひんやり冷たかった。手触りは滑らかで壜のなかはもっと冷たいのだろう、蛍も冷たいし蛍のひかりは冷たいひかりなのだろうとわたしは思ってサチにそれを伝えたかった。「嬉しい? あのね、タネ、よく聞いて。わたしたちは、本当は生きていないの。生きていないのよ、あなたにはわからないかもしれないけど」そのように。冷たいひかり。彼女が何を云ったのかわたしはわからなかったが同時にわたしにはわかった。わたしはサチに伝えたかった。
 「あなたが気が狂っているように世界も気が狂っているの。今日すれ違った盲目の老婆がわたしで、傍らで呼吸困難に陥っているのがタネ、あなたなの? きっとそう。盲目の老婆の濁った眼球には、壜はいつだって割れていて、蛍のひかりはひかりそれ自体を照らさない。だからわたしたちの時間は交わらない、わたしたちは、ひとつの名前も持っていない、それで、誰が誰の奴隷だというの?」サチがわたしの首筋に手をあてた。サチはひかりの匂いがした。サチのひかりの匂いが。そのように。わたしはサチに伝えたかった。
 「これから、かつて一度も起こらなかったことについて話をするわ。冬の話。ふたりで学校をずる休みして街外れのサーカスに行こうってわたしは云うの。あなたは頷くけど、ほんとうのところあなたがサーカスを観たかったかどうかはわからない(わたしはあなたが何を考えているのかわかったためしがない。きっといつかはわかるときが来るのかしら)。スーパーマーケットの駐車場のはしっこの自動販売機の隣にある電話ボックスから学校に電話をかけるの。お母さんのふりをして。電話ボックスのなかでも、吐く息が白かった。うちのふたりの子どもたちは昨日の体育のマラソンで風邪をひいてしまいました。ちょっとアテツケがましく。そしたら先生はお母さんのふりをしたわたしに云う。お大事にって云う。わたしたちは顔を見合わせて笑った。タネ、あなたは笑ったわ。そして、わたしたちは」蛍のひかりが明滅を繰り返すのをわたしは壜の外から見ていた壜の中で蛍がひかっていたわたしは言葉を話したかったが話せなかった。代わりに口から音が漏れそれは豚のような音で。「わたしたちは存在していたのかもしれなかった。冬のことよ。吐く息が白かったの。サーカスに行くために、わたしたちは存在していたのかもしれなかった。そしたら急に雨が降ってきて、雨は降り止まず激しくなりスーパーマーケットも遠くに見えるサーカスのテントも何もかもを灰色に染めてしまって、わたしたちは電話ボックスに閉じ込められてしまう。タネ、困ったね。わたしたちはしばらくじっとしていた。いっぺんに存在しなくなっちゃったみたいに、息をひそめて。そしたら、いよいよ心細くなって、わたしは泣き出すの。でもあなたはお母さんにしてもらった、こするとぎしぎし音の鳴る手袋をはめた両手でわたしの手を包んで、言葉にならない言葉で『大丈夫、サチ、泣かないで』って云った。何度も何度も。『泣かないで、泣かないでよ、大丈夫だから』って」そのように。
 蛍のひかりが不意に消え、暗闇がわたしを襲った。それは馴れっこだったしサチがすぐ傍にいるのがわかったからわたしは泣かなかったが壜と鏡を持つ手の感覚がなくなるにつれ暗闇はわたしを遠くへ連れて行ってわたしにわたしをわからなくさせ、ひかりみたいなサチの匂いを嗅ぎ分けられないようにしてしまうように思え、わたしは泣き出した。「悲しまないで、お願いだから」とサチが云った。彼女はわたしを抱き寄せ今にも消えそうな、今にも消えそうなひかりの匂いのする頬をわたしの額にあてそれからわたしの額にキスをした。わたしは泣きやんだ。「わたしたちは病気なんだわ」とサチが云った。「わたしたちは存在しない病気なのよ」


 はじめに空白があり、次いで饒舌がやってきた。饒舌は凄まじい暴風でもってわたしを襲いわたしを混濁させわたしをわたしだとわからなくさせ全てが終わったあとにそうして、サチはもういなかった。あるいはサチが云うようにはじめからサチは存在していなかったのかもしれない。悲しまないで、お願いだから。誰が誰の奴隷だというのだろう? 37という数はわたしの年齢だがそれはある詩人の消息に由来しているかもしれないしそうじゃないかもしれない(いずれにせよ、わたしがそれを知り得ることはないだろう。沙漠の彼方に消え去り、右足を切断でもしなければ)。喜ばしいことに。わたしは何もかもを忘れている。わたしが思い出したことはかつて一度も起こらなかったことだ。そのように。蛍の冷たいひかりが、わたしたちが閉じ込められている壜をひんやりさせ、吐く息まで白くさせる。そのように。わたしはサチに伝えたかった。わたしはサチに伝えたかった。わたしはサチに伝えたかった。わたしはサチに伝えたかった。4回繰り返した。わたしの、わたしのものではないわたしの言葉を。

だれしもが
わたしたちを 訪ねたのだろう 
まえぶれも 起こらなかった笑い声も 鋏も 文字盤のない時計 移動遊園地も 墜落する航空機も 整合性のない主張や 鐘の音 とばっちり 沙漠を渡るキャラバン 血液や運命さえも わたしたちがひた隠しにしたがる暗い欲望が わたしたちの堆く積まれた死体を 黒く照らしている 
永遠に
ほんとうに
心から


山裾をすべる風が
気持ちよく
暴力と言葉は
自由の



  いいえ 起こらなかったことは あたたかい 草もなめらかさも飲料水も 生きることに必要なものは みな苦い そう教えられたような気がするし 何だか眠たい あなたのあたたかさは夢のように確かだから もういない  いいえ いないことはあたたかい 自分のことがいちばん大切なの 誰だって 湿地帯に建造された窓のない建物のなかで 焼かれている あなたが耳癈か盲だったなら 歩くことさえ怖がっていたなら  いいえ 何も起こらない あたりはいちようにあたたかで 焔を押し付けられた肌膚は きれいな色をしている 憎しみらしく 穏やかに  いいえ 何も起こらない とうに 訪ねられて それらに――


誰かがドアをたたいている音
ドアを開ければ誰もいない
窓がすこし開いていて
あたたかい空気が
日常のように
侵入してくる
燻っている
熾火



いずれわたしたちもはなればなれになる
永遠に
ほんとうに
心から
愛している 愛している 愛していない
そうね
きっと
 

わたしたちは調子に乗って おさなごを殴りつけたり刺し貫いたりして
命を損なう行為その他について
話をしている
    (飛行機がギューンと空の低いところを過ぎ、
 高いところを目に見えないものがゆき過ぎる)

そういうこと、赦せないよね、とあなたはわたしにいってもらいたそうだったから、
そういうこと、赦せないよね、とわたしはいう。
ぼくも同感だ、とあなたもいう。でも
 ・実は僕もこどもをぶち殺したいと思うことがあるんだ。
 ・日本語がわからないからきみの話もわからない。
 ・そんな話はさておきラクダにでも乗りに行かない?
  おさなごと一緒に
  ふたこぶのあいだにうまくはさまって、
  アフガニスタンの荒野をはるばると、
  ラクダのまぶたは二重でかわいいけど、
  やっぱりおさなごは怖がるかもしれない(だって2mくらいあるんだもの、グラグラ揺れるし)、どこに向かうのか、だれにも わからないし 怖いけど(怖くなんて ないよ!)
  だとかいってくれても、ちっとも構わなかったんだけど。

あなたは――窓際の鉢のつちを掘り返し、植物の根を埋め、
わたしは――それを見ていたかった
時折――いつも。  
(あるいは何もかも とばっちり?)
そうね。
飛行機の残響、肌寒さが
わたしたちと話をしているのね。


ラクダに乗って(調子に乗ったりしないで)
おさなごと一緒に
ラクダとおなじ目線でわたしたちを見渡せば
見えないものが見えるかもしれない
赦せないことが赦せるのかもしれない
でもきっと生涯、乗らない。
 
 
 100m先を老婆が降りていく、おれはさらに200m向こうにあるだろう。適度な暴力の泉と、水牛の腱。

 そう、暴掠のすめがみがわたしたちをつくったのね、知っていた? 窓の外は灯火に照らされて明るい。こちらがわも、また。

 それもこれも、適度な虐政、適度な明るさであるといえるだろう、おれたちをつがいとしてのみ数えたがる、薄情なトマトみたいなやつらの不純な欲動にとっては。飛行船が遠くに見える。

 博物館を速さにおいて考えるの。沈黙のうちに陳列されたおびただしい歯茎や、紫の鼻筋、それらについてあなたは夢見たことがある?(幼稚なあなたは我慢ができず怒りだすのね)

 だがやはりそれでもおれたちだってつがいであると考えるべきではないか、ある意味においては。ある意味においては。老婆やおれもまた、季節の方舟に揺られているのだとすれば。

 明るさ、わたしたちによってかつて語られたもの、わたしたちではないなにものかとわたしたちに名指されたもの、わたしたちという博物館は――(あの映画、そういえばあのあと救われたのかしら、あの男娼は?)

 博物館? そんなものは悪い比喩だ! あの映画、あのあと、あの男娼、あのラストシーン、あの死を模倣したできそこないの役者、あの終わりを終わったあとにいつかやってくるだろうあの死! あのあのあのあの。もうたくさんだ! おれたちは静やかに並べられたりはしない。幾百m遠くを、地下へと!

 くだりきってみれば、そこも奇妙に明るい広場なのではないの? わたしはわたしたちをあなたの眠たい言葉で語ることをしてほしくない。ブランケットを引き寄せるようには、わたしたちは自由ではない、しばらくはここにこうしているとしても。

 ずぶ濡れだ!

 あなたをあなたのままに、わたしをわたしのままに放逐するすべはないの? あなたのパッションは? 籐の籠に並べられたくだものは?

 転覆、めくれあがったくちびるの奥の歯茎がおれを食べ尽くそうとしている。ふくらかな大腿部はほとんど齧りとられてしまった。いや…… つまり…… 頭蓋にビニルをかぶせてくれすみやかに、そうだ、死者も汗をかくのだ。

 それでもわたしはあの男娼のことが気になる。博物館が汗をかく? たしかに、悪い比喩だ。早晩、それらは清潔な明るさ、窒息するほどの暴虐によってかれらのものになるか、そうでなければ、何も無い。

 ……

 明るさ!

 ……

 明るさに照らされて、おれは定点を持たない距離を正確に測ろうとしている、40075161mの彼方、わたしたちはたしかにつがった、たしかにおなじ舟に乗っていた、あの眠たさのなかを。まるで動きのない速さのうちに。ブランケットをかぶされて。しばらくはここにこうしているとしても。しばらくはここにこうしているとしても。転覆せよ、舟! つがいはわかたれ、死者も汗をかくのだ。転覆。アフリカの草原、絶望の入江、博物館によって陵辱された男娼のよろこび。転覆。わたしたちの皮膚のしたのやさしい裏切り。転覆。そのような暴虐よ!
 
 しなやかに撓む、たけだけしい言葉をわたしのものにして、あなたを救ってあげられたらと思う。あなたについての言葉ではなく、あなたの言葉をさがしあてて、ふたりで笑いあえたらと。いいえ、ふたりといわず、たくさんの声がまじりあう岸辺で、消えたり弾んだりしながら。

 やさしいたてがみの馬、とおくまで見霽かせる場所、カリフォルニアのスーパーマーケット、草を摘んだり、花を挿したり、ホロホロチョウのむきだしの首、沙漠の彼方のキャラバン、孵化しようとしているたまご、やわくあたたかい泥濘のように。

 でもそうじゃない(雲がちぎれていくの? 夢につつまれているの?)。あなたのわたしの気持ちは、植物を摘むようにはできていない。 わたしたちは、笑わない。わたしたちのかたちは似ているけれど、わたしたちは似ていない。嘘。それも嘘。わたしたちは外から見たら、きっと、そっくり同じ。

 なんだかわたしはつねに思い違いをしているのね。
 
 やあ、時間だけが過ぎてゆくのね(季節など、巡りはしない)。
 わたしたちはめいめい、仕度をつづけているふりをして、もう死んでいる。
 
つかのま、
驟雨が濡れるものを濡らす合間に
バスを乗り継いで、バスを乗り継いで、
どこを目指したろう、わたしたち
ただ
ひとりきりでふるえていた世紀に さよならを
然様なら、然様なら、と。

それはたとえば――
あなたがわたしみたいに 何かの辻褄をあわせるように フットボールをリズミカルに つぎの瞬間に首を吊り 滴る血液が泥土に染みこんで とおくとおいひびきに耳朶が凍えるように――

おそらくなにかが
ただしく まちがっている(きれいなゆびだね、とか 未来はあかるい、とか)。
わたしたちは だから、つまり、やあ、こんにちは!
そんなことより ダンスを
踊らない?   (いたいけなショールを羽織り)やわらかな
        ステップを    トントントン(でも踊らないよね)
雨上がりのにおいが
あなたを
行方不明にする前に(でも――踊らない?)。
 
 
早晩、
わたしたち
一斉に射撃され
繊細な穴が穿たれたバスから転がり出て
あなたは
薄い日のひかり 少しの憂鬱を
睫にのせて
まるで生きていないみたいに 呼吸を
寄り添うように 岸辺に
寄り添うように しずやかに
さようなら こんにちは さようなら こんにちは、と。
 
たまのやすみには
有意義なことがしたいわ よごれている部屋のかたづけや
書きかけの手紙をしあげたり アイロンがけ 映画!
とか そういうのじゃなくて
やらないよりはやったほうがよいこと じゃなくて
もっとこう なにかしら 倫理的な
とか そういうことを考えるのは
きっと昨日読んだ本のせい
ね あなたは
居間にいるの?
墓のしたにいるの?

すこし前
あなたではないほかのひとと
たくさんの墓がたちならぶなかを ゆっくりと
進んでいった
誕生日のお祝いの帰りで こじんまりとした
店構えの フランス料理屋のテーブルで
向かいあっていた すこし前のさっきまで
すこし前のさっきのあとは 墓地を歩いている
暗がりのなか 涼しい風
いなくなった
たくさんのひとたちへの
ささやかな挨拶の仕方を
教えてほしかった

信じないよりは信じたほうがよいものが
たまのやすみには
必要かしら
もう夜のにおいがする
テーブルのうえだけはかたづけ
友人に電話して
アイロンテーブルやスチーム効果について話したり
昨日読んだ本については
話さなかった
それでこれから 何時間眠れる?

やすみが終われば
終わりまでまたすこし
近づく
ね あなたは
終わりのあとも
やすんでいるの? やすらかに?
有意義だった?

だれもがハッピーエンドを望んでいる
と思ってたけど そうでもないのかもとさいきん
考える 蛍光灯が
洗濯物を照らしている
昨日読んだ本も
窓のそとも
血色の悪いうで
墓地
ささやかな挨拶
ハッピーエンドも
 
わたしの従妹は知的障害者だから
焼いた
よだれをたらす
豆が好き。
焦点のさだまらない目が
よだれ
台所に立ち、全存在をかけて

をフライパンにあける。
ギリシア彫刻が美の象徴ならば、
彼女は醜い。

ゆらゆらとほのお
ほのおよだれ豆、
の上で撥ねる豆。パチパチ。
それから もうよだれ、よだれ
よだれ
よだれだ
らだらだ
ほんとうに

ほんとうに
塗られているのだ、とくべつな何かによって
小舟が
沈む
不具へとさしむけて――

死はすぐに訪れない
豆とともに、豆のそばに、豆のかわりに。
全きいいことだ
彼女といっしょに
豆が爆ぜる音を食べる よ
だれ?
わたし
そう思うよ
全きいいことだ
そうでしょう?
さあ、どうかしら、
豆をもっと、豆、豆。
 
ちかごろ、詩を書かなくなった
ほんとうに
さまざまなものが目減りし
出歩くことも少なくなった。

枯れ野
をひとりめぐり歩く老人の
ひざのきしみ

魚を焼いた、
脂で汚れたガスコンロ
を掃除していたら
わたしのなかのかつての狂える老人が
もうどこにもいなくなっていることに
いまさらになって
愕然
ストーブから灯油を抜いておく
詩は
わたしのなかで
きっと死んでしまった
老人は――

だから
こんなことは何でもなくて
生活のへりにはいつも
眠気があり
あてどない性欲と
すべらかなひとつづきの安心。
それも悪くはないが

詩はいつも
わたしとともにあったと思う。
これまでも
むろんこれからも。
ただずっと
死んだままで

枯れ野は
暮らすのに適していない
きっと
詩を書くにも適していない
嵐に寒がるリア王に似ていた
狂える老人は

火のつかないストーブ
わたしは
あしもとからのぼってくる寒さ
ぐずぐずしている
詩はいつも
眠気
枯れ野を夢見て
死んだままで
 
みぎわ
少女たちが涼しくまたいでいく
わたしたちのそばには
みぎわ
それをそらんじる

満ちても引いても
みずと地面のあいだは
だれにも見つけられないから
そのうえをゆく少女たちは
すごいな

漁師が昏い海で
網を放る

みぎわ
それをそらんじる
わたしたち
狂気の網にからまった
少女たち――わたしたち?
をそらんじている
 
紅茶を淹れ、紅茶を流しに捨てる。
 
必要なんです
どうでもいいともだち
変電塔
愛することのまねび
接ぎ木
どうでもよさ
どうでも
 
悪意はやさしさだから
こっちへおいで
一緒にトイレットペーパー食べよう
 
だから、
わたしたちはわたしたちの部屋を片付けず
ひかりをとる窓をつくらない。
つくるものをつくることもせず(たくさんの子どもたちが生まれはせず)
殺しあい、
笑っていても
数えることもままならないおびただしさ
のかたまり
によって そこなわれ
なにものも関係のないものがわたしたちを
悲しくさせる(誰しもがとおからず またぐから)
あなたもわたしも
性愛のものものしい絶望とともに
契り
あなたもわたしも
言葉はそっけなく
汝らの子どもを愛せはしない(だが欲情はして)。
殺しあい、
笑っていても
それでも
あなたがわたしを悼み
わたしがあなたを悼んだとしても
そうだとしても そうではないとしても 
 
おとずれていたのだ
あなたもわたしも
とうに手遅れであり
たしかさなどなく
憎しみすら懐かしくなったころに
言葉のなかをとおって
向かわず
たどりつかず
あなたもわたしも いない
わたしたちとは関係の ない
たまさかの秘密のなかに
わたしたちの子どもの首をかかげ
そうではない
そうではない
と幾度も幾度も幾度も
いつか
いずれ
あなたもわたしも
殺されたあと、
軽いおかしみの 挨拶のなかに
 

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